今年も島根県で開催されるギターウルフpresents『シマネジェットフェス2019』。そして初のフリー開催に向けて、今月クラウドファンディングがスタートする。主催のセイジに直前インタビュー!
(インタビュアー&構成:フジジュン)
――3度目の開催となる、『SHIMANE JETT FES』ですが。今年は新たな可能性を見出そうと、クラウドファンディング(以下、CF)にも本格挑戦しています。
セイジ 去年は俺たちでCFをやって、80万円くらい行って喜んでたんだけど。今年、bambooくんに相談したら「696万円集めましょう」って言うからビックリして。大丈夫かな? と思ったけど、自分が知らなかった新しい世界も見れると思って、やってみようって。
――今年は「チケット代を無料にしたい」というところが大きな目標なんですよね?
セイジ そう。無料フェスにしたいってのと、去年と一昨年に自分が大きな赤字をかぶってしまって。赤字をかぶるのはお金があれば出来るんだけど、今年はかぶるお金も無いから、このままだと続けられなくなってしまう。そしたらbambooくんが「分かりました、一緒にやりましょう」と言ってくれて。bambooくんのバンド(milktub)のライブを見に行った時、「こんな盛り上がりがあるんだ!」と思ってビックリしてね。彼がゲームの中の曲を200曲くらい作ってるって言って、ファンはそれをみんな知って盛り上がっているから、すごく面白いなぁと思って。俺は知らなかったけど、そのジャンルの中ですごい盛り上がりを生んでることを知って、そこに関われるのも嬉しくて。
――ジャンルやシーンは違いますけど、ロックにすごく純粋ですよね。
セイジ 確かに。bambooくんはこの間、島根に来てくれて。CFで進めていく上で置いてけぼりにしないように、島根でやってる大事なフェスのスタッフにもしっかり説明してくれて、みんなで一緒に呑んだんだけど。
――セイジさんのご実家で一緒にご飯も食べられたそうですね?
セイジ そう、しじみ汁飲ませたよ(笑)。bambooくんは貝のスープが苦手だったらしいんだけど、うちで食べて「考えが変わった」って。宍道湖のしじみはそれくらい美味いし、濃厚なんだよ。宍道湖はしじみの漁獲量が日本の75%を締めてたんだけど、他の漁獲量も増えてきて、今はそこまで多くないのかな?
――かなり大きな湖ですよね?
セイジ 日本で7番目に広い湖だね。松江にいるとすごく広く感じるけど。
――フェス会場である、古墳の丘古曽志公園からも一望出来るんですよね?
セイジ そうだね。島根ってのは自然も多いし、神話とか松江城とか歴史の雰囲気を残してる町ではあるんだけど、だからこそロックがガツンと来ない気がして。アメリカとか海外でフェスに出たりする中、自分が島根で出来ることを考えた時、フェスでロックを届けることだと思ったんだよね。そこで自分にしか出来ないフェスが作れたら、色んなフェスと連携しながらも、島根に特色のあるフェスが作れるかな? と思って始めたんだけど。自分が熱く燃えることによって、隣の人も熱くなって。周りに熱い人をたくさん作って島根を盛り上げて、全国の色んな地方にいる熱い人間と結託出来たら、終いには日本全体が盛り上がって、「やっぱり日本って凄いな!」と思うものになるんじゃないか? と思って。
――各地にいる熱い人間の熱が連鎖したら、日本を包む大きな熱になるはずだと。
セイジ そう。俺は世界でもたった一人が熱くなれば、その地方が熱くなることを知ってるから。そういう人間がポッポッといるだけで、その国自体が熱い国になるのをよく見てるから。たった一人の熱が日本を変えるんだよ!ってことを、島根の人や全国の人に見せたいんだよ。それは例えばフジロックもそうだし、世界の大きなフェスが証明していることだから。それを自分が動いてやってみたいなと思って、立ち上げたのがこのフェスです。
――フジロックとかサマソニとか、大きなフェスばかりに注目が行きがちですが。地方に目を向けると地元の熱いヤツらが、想いだけで始めたフェスってたくさんあるんですよね。
セイジ そう。自分もそれに感化されてやった一人なんだけど、同じように俺も誰かに熱を伝えて、繋いでいくことが出来ればなって。
――セイジさんが熱い想いで島根でフェスをやってることを知ってくれて、だったら俺も協力しようと思ってもらうキッカケとして、CFは最適ですよね。
セイジ 本当に。やってみて分かったんだけど、CFを通じて全国の人と話しながら作り上げていくっていうのは、今まで一人だけの発信だったものが、たくさんの人と作り上げてる感覚があって、すごく心強かったし。
――全国の赤字かぶりながらも熱い想いだけでフェスを作ってる人には「そういうやり方もあるんだ」ってヒントになるかも知れないし、そういう人同士が繋がることも出来ます。
セイジ そうだね。bambooくんから、「CFが日本に入ってきて、歴史が浅いけど。こういったお金の使い方は新しいロックミュージシャンの生き方だ」って話を聞いて。それがどういうことだか、よく分かってないけど(笑)。誰かが立ち上げたものにみんなが集まって、なにか大きなものを作るっていうのは素晴らしいことだと思うし。
――僕もそこまで詳しくないですけど、CFというのは、なにかしたいけど、何をすれば良いか分からなくてくすぶってる人が共犯者になれる絶好の機会だと思います。
セイジ そんな感じはします。いま、地方にツアーで言ってもCFのツイキャスを見てくれてる人がいて、「無料にしなくてもちゃんと払うよ」って言ってくれるんだけど、「いや、ちょっと今回のやり方見ててくれ。チケットの代わりにCFに参加してくれねぇか?」と言ってて。チケットを買ってくれるのも嬉しいけど、またちょっと違うんだよね。
――クラウドファンディングがまだ、そこまで一般的ではないところもあると思うんですけど、セイジさんはお金の話をすることに抵抗とかはなかったですか?
セイジ 抵抗はなかったな。去年からやってくれてる人がいて、その人も「みんなにこんなフェスをやってるってことに共感してもらいたい」って考えで。実際にやってみたら、「こんなのやってるんですか?」って共感してくれる人もワッと増えて。bambooくんはCFをすごい研究して、「CFは見え方だ」と言ってて。俺が一番最初にツイキャスでやったことは「自分がCFをやっていいか?」という問いかけだったんだよ。そこに嘘があっちゃいけないから、お金の部分も含めた現状を赤裸々に語って、それをみんなが納得してくれた上で、「だったらやりましょう」って話になったから良かったなと思ったし、広い意味でみんなと一緒に作り上げていける感じが素晴らしいなと思って。
――ただ正直、セイジさんはロックスターなので。お金の話とか、生々しい話はあまりして欲しくないってところはあるんですよね。
セイジ きっとね、自分自身に確立されてきたものがあるというか。これまで自分の作り上げてきたキャラってものがあると思うから、多少のことではっていうか。「そんな俺がやるんだから」って感じがあるか分からないけど、それを信じて問いかけるしかないよね。
――多少のことではブレることがない?
セイジ ブレるブレないってのは、また話が別で。フェスをやり始めてから考えたことなんだけど、ある程度は人の意見を聞きながら、ある程度ブレていくことも大事だなと思って。ブレることによって色んな人の気持ちも入ってこれるし、色んな人の意見も入ってこれるから。ブレることも重要なんだっていうのが、フェスで学んだことかな? 背骨はしっかりありながら、色んな人の意見を聞いて心がブレることも大事だなって思うんだよね。
――ギターウルフとしての活動はブレることなく、自分たちで道筋を作っていくことが重要だけど、フェスという大勢の人が関わることだと話が別ですよね。
セイジ そうだね。ああしたいこうしたいって、色んな人の意見がある中で、自分の意見を貫くのは言語道断で。人の意見を聞きながらあっち行ったり、こっち行ったりして、道筋を見つけていくのが大事だと思うんだよね。そもそも、俺一人でフェスをやろうとしたって、どこへ行っていいのか、何をしていいのかも分からなくて。手伝ってくれる人たちも何を手伝っていいのか分からなくて困ってたんだけど、島根で俺が一人で走り回ってるのを見て、みんながちょっとずつ動いてくれて。1年目をなんとか形にしたら、県が協力してくれるって動き出してくれて。1年目、2年目に赤字は背負ったけれど、色んなことを学べたし、自分のハートはグレードアップした気がしていて、気持ちはスカッとしてるんだよね。今は周りの人から、「ぜひやりましょう!」って言ってくれるしね。
――行動して形にしたことで周りに熱が連鎖して、状況が変化したんですね。
セイジ あとは速やかに運営していけるようになれば、みんなも動きやすくなるのかな。もう一つ学んだことは、とにかく色んな人のところに突っ込んで会いに行くってこと。会いにくい人でも電話やメールじゃなくて、とにかく会って話をしたら、何か広がる。それは昔から思ってたことだけど、やっぱりそうだなって再確認したね。どうやればいいか、さっぱり分からなくても、当たって砕けろで色んな人に会って話をしているうちに、自分の中でだんだん道筋が出来てくる。それはフェスに限らず、何かを作る時はそういうものだというのを改めて思ったね。
――そこもセイジさんの熱量も重要だったんだと思います。熱がないと相手の心を動かせないと思いますし、広がるものも広がらないというか。
セイジ あと自分が一番強かったのは海外でも活動して、30年間やり続けているギターウルフという存在で。それは自分が培ってきたものだし、そこに信用もあって、なにかを動かすものになっていて。地元とはいえ俺を知らない人も多くて、そんな人でもちょっと調べたらギターウルフの活動が出てくるし、信用もしてもらえる。結局は自分が積み重ねてきたものが信用になったし、切り札になったよね。
――自身でのフェス開催という、未知なことに挑戦する怖さはなかったですか?
セイジ あったよ、それはずっとあった。1回目は9時からオープンなんだけど、8時の段階で用意で走り回ってて。入り口までの矢印が変な方向に付いてて、お客さんが全然違う方に行ってたりして(笑)。本当に始まるのかな?って不安にもなったけど、時間になったらスタッフがしっかり開けてくれて、ちゃんとステージが始まって。あの時は「本当に始まった!」と思って、感動したよ。
――セイジさんは小学校5年生から高校卒業まで、一番多感な時期に島根に住んでたそうですが、その頃、地元にこんな無料のロックフェスがあったら、人生変わりました?
セイジ それをやろうと思って、始めたフェスだからね。宍道湖では8月にでっかい花火大会があるんだけど、その近くには昼間からやぐらが組まれてて。そこで中学か高校の時にロックバンドを見て「うわ、すげぇ!」と思って、ロックバンドへの憧れが生まれて。それを見たからロックバンドをやったかは分からないけど、その時の映像はすごい覚えてて。俺の中でなにかの刺激にはなったんだろうなと思ってるし、あの時の自分を突き動かすようなものを今、松江で作りたいと思ってて。それも原動力になってるよね。
――素晴らしいです! 松江の若い子がジェットフェスのたった一度のライブ体験で、人生変わってしまう可能性も大いにあると思います。
セイジ だったらいいんだけどね。会場の古墳の丘公園で、「将来のロックヒーローを発掘しよう」ってコンセプトで子供ギター教室をやったりもしてて。子供の頃って、「鉄の弦が付いたギターって、どんな音がするんだろう?」って、みんな興味があったと思うんだけど、案の定で子供が飛びついてきたり、ライブ以外にもそんなこともやってます。ライブ出演者もロックバンドに限らず、「ヤマタノオロチ ライジング」だから、石見神楽の「スサノオノミコト、ヤマタノオロチ退治」で始まって、地元で有名なよしとのロック紙芝居があったり、なるせ女剣劇団が出てきてチャンバラやったり、色んなことやってます。
――遠方から来た人は松江の文化にも触れることが出来るんですね。
セイジ まだフェスの形は確立されてないんだけど、確立されてなくても良いと思ってて。最初は俺一人で考えてたことに、「こんなことしましょう」ってアイデアがどんどん加わっていったことが凄く良くて。フェスに限らず、なにかを始めようって人が全国に増えていくことで、国自体がパワーのある国になっていくんじゃないか? と思うんだよね。
――色んな形で協力出来たら、地元の人もやりがいあるでしょうしね。
セイジ 町自体が過疎化で悩んでる街なんで、ジェットフェスに訪れた人が町の魅力に気付いてくれたら何かが変わる気がするし、これだけ賑わったら喜んでくれてるんじゃないかな? 1年目に街の人の家にアーティストを泊めるっていう民泊をやって、前夜祭として公民館で食事して。フェスが終わってからも公民館で地元の人たちと打ち上げをやったりしたんだけど、そこに参加してくれる人もどんどん増えたら良いなと思うし、何かが変わるような気がするし。ま、今は目の前にあることをやっていくだけだけどね。
――CFは6月からスタートですが、CFのリターンはどんなことを考えてるんですか?
セイジ 自分の愛する宍道湖のしじみとか、特産品を色んなお店に声をかけて提供してもらったりしていて。結果、ジェットフェスをキッカケにその店が潤っていったら良いなと思ってるんだけど。松江の人をどう巻き込んでいったら良いんだろう? というのは、1年目から考えていたことで。bambooくんからこのアイデアが出た時は、本当に素晴らしいと思ったね。あとは出演者のサインとかTシャツをプレゼントしたり、出来ることは全部やっていきたいと思ってます。
――特産品のリターンは素晴らしいアイデアですね! その仕組みだったら、残念ながら会場に行けない人も特産品を味わうことが出来ますしね。
セイジ 会場ではウチの母ちゃんが味付けした、“ギターウルフ・セイジの母ちゃんのしじみ汁”ってのを、俺は望んでないんだけどスタッフが勝手に出してるけどね。去年、宮藤官九郎が来てて、それを食べてインスタに上げてくれたりして、結構売れてたみたい(笑)。
――わはは。CFはチケットを買う感覚で、気軽に支援して欲しいですね。
セイジ そうだね。収容人数がそんなに多くないから、フリーでどれくらい来るのか?というのが読めないところだけど。いまはあの場所を盛り上げて行きたいから、人数が増えた時にどう対処していくかも考えてるところです。近くに出雲大社があったり、島根は観光にも最高の場所なので。全国からたくさんの人に遊びに来て欲しいね。
※当記事は2019年9月創刊雑誌「696magazine」掲載予定のセイジのインタビューの全文記事を事前公開した物です